2023/01/28
ひーちゃん
ひーちゃん
ひーちゃんは生後2か月の女の子
名前の最初が「ひ」なのでひーちゃんになった
ある晴れた暖かな冬の日の昼近く
ママと一緒に我が家にやってきた
まるまると肥え太った
いかにも健康そうな赤ちゃんで
何日か前の大相撲初場所で
幕内最高優勝を果たした
あの大関・貴景勝に
体型も表情もそっくりだった
「あなたはお相撲さんの貴景勝にそっくりですね」と
思い浮かんだ第一印象を私はひーちゃんにそのまま伝えた
ママにだっこされてきたひーちゃんは
用意された布団の上に
仰向けに寝かされた
ひーちゃんはすぐに手足を動かし始める
両手を元気よく上下左右に振り回し
両足で掛布団をけり続ける
いつ果てるとも知れない筋力トレーニング
私は添い寝をして
ひーちゃんに話しかける
「筋トレ、がんばりますね」
ひーちゃんは
「あなたには関係ないでしょ」とでも言いたげな表情で
無言で筋トレを続ける
ひーちゃんはときどき
添い寝をする私をじっと見つめる
そのとき私は
ひーちゃんは今
揺るぎなく確立された確固たるひーちゃんの世界にいて
そこから私をじろじろ観察しているような
そんな感覚にとらわれた
ひーちゃんは口をもぐもぐ動かすと
急に顔をしかめ
小さな口をせいいっぱい大きく開けて
「びぇー」とかわいらしい泣き声をあげる
私はどうしたわけか胸がキュンとなり
何かしてあげたいが何をしたらいいかわからず
混乱した意識をもてあまして
ただもううろうろするばかり
ママは「お腹すいたのね」とひーちゃんに話しかけながら
手早く授乳の準備を始める
ある晴れた暖かな冬の日に
私はまぶしいほどの命の輝きを目撃した
それは泣き声一つで周囲の大人たちを動かすほどの力をもち
しぶとくしたたかで
そしてこの上なく美しいものだった
ある晴れた暖かな冬の日に
私はすっかり参ってしまった
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