大丈夫だよ

   大丈夫だよ

 小学6年生のとき、
 一緒に遊んでいた友だちが、
 転んでけがをした。
 顔を地面にぶつけて、
 鼻血を出した。
 おまけに口の中も切って、
 鼻と口から血が流れた。
 びっくりして、
 私は恐る恐る、
 「だいじげ(大丈夫かい)?」
 と聞いた。
 友だちは即座に、
 「だいじだ(大丈夫だよ)」
 と答えた。
 とても大丈夫そうには見えなかった。
 友だちは強い人だな、と思った。
 こんなけがに負けるもんか、
 とがんばってるんだ。
 私はその健気さに感動した。

 私が中学生のとき、
 同居していた祖父は、
 前立腺肥大を患っていた。
 おしっこが出なくなると、
 父が車で祖父を病院に連れていき、
 おしっこを出してもらっていた。
 ある日、父が仕事の手を離せず、
 すぐに病院に連れていけないことがあった。
 膀胱が張って、祖父は苦しそうだった。
 祖父の傍らで気をもんでいた私は、
 恐る恐る祖父に尋ねた。
 「だいじげ?」
 祖父は「うん」と答えたが、
 とても大丈夫そうには見えなかった。
 祖父はとても我慢強い人で、
 弱音を吐いたことなど一度もなかった。
 そんな祖父が、私は大好きだった。
 苦しむ祖父を前にして私は、
 何もできない自分を恥じた。

 大人になって、同僚の女性から、
 仕事のことで激しく詰め寄られたことがあった。
 職員研修に招いた講師の女性が、
 講話の途中で体調が悪くなった。
 研修担当の職員が講話の途中で、
 「大丈夫ですか?」
 と声をかけた。
 講師の女性は、
 「大丈夫です」
 と答えた。
 その顛末をその場で知った同僚の女性が、
 この企画の責任者だった私に、
 こう詰め寄ったのだ。
 「体調が悪そうな人に、
 『大丈夫ですか?』
 と聞いたら、
 『大丈夫です』
 って答えるに決まってるじゃないですか。
 すぐに研修を中断して、
 彼女を休ませるべきです!」
 私は講師の意志を尊重する形で、
 担当者に研修の続行を指示した。
 それがよかったかよくなかったか、
 今でもよくわからないが、
 講師である彼女は、
 強い意志で困難を乗り切り、
 私は変化を恐れて動かなかった。

 「大丈夫」に隠されたさまざまな思いと、
 「大丈夫」を口実にして動かなかった、
 情けない自分を思ってみる。
 そして、これからも生きていく限り、
 何が試され続けるのかを考える。

 「大丈夫だよ」を洞察できるか。
 「大丈夫だよ」を見破れるか。
 「大丈夫だよ」を突き破り、
 自分が為すべきことを
 自信と勇気をもって為すことができるか。
 困っている人を、少しでも、
 助けることができるか。
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あさひなせいしろう

Author:あさひなせいしろう
 拙い文章を読んでいただき、とて
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のブログの生きる糧になります。お
手数をおかけしますが、どうぞよろ
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 こうして読んでいただけたのも、
何かのご縁にちがいありません。あ
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