2023/01/20
整形外科待合
整形外科待合
整形外科診察室の前の廊下
並べられた20脚の椅子は
順番待ちの患者たちで満席だった
それでも足りず、立っている人が二、三人
そこへふいに
体格のいい若者と
彼に寄り添う
母親とおぼしき小柄な中年女性が現れた
若者はぜーぜーと荒い息を吐きながら
思うように動かない体に鞭打つようにして
苦しそうに廊下を進む
複雑に曲がった右脚の
膝から下にはものものしいギプスがはめられ
歩くたびにぎしぎしと
軋むような音がした
左腕の肘には頑丈な杖が装着され
右腕は母親が顔をしかめて懸命に支えるが
ゆがんだ若者の体は一歩を進めるごとに
大きく揺れて今にも倒れそうだ
そしてとうとう
疲労困憊したその若者は
もう一歩も前に進めないと
母親に身を預けるようにして
立ち止まってしまった
大きく肩で息をしながら若者は
左足を踏ん張って
必死になって倒れるのをこらえている
傾く体を立て直そうと
もはや最後の足踏みを試みたとき
廊下全体に断末魔の叫び声を響かせるように
ガシャアンと大きくギプスが鳴った
するとそのときだ
それまで若者と母親を注視していた
近くの二、三人の患者が
弾かれたように椅子から立ち上がったのだ
若者と母親を助けるために・・・・
若者は譲られた椅子に力尽きて倒れこみ
母親は周囲に深々と頭を下げた
隠れている愛は時々
突然勢いよく、また鮮やかに
その姿を立ち現すことがある
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