なわとびの女の子

   なわとびの女の子

 19歳の私は、
 都会に出てきたばかりの大学生でした。
 ある秋の日の午後のことです。
 私は大学から下宿に帰る道すがら、
 とある公園にさしかかりました。
 その小さな公園はひっそりとしていて、
 小学1年生ぐらいの女の子がただ一人、
 なわとびで遊んでおりました。
 「ああ、女の子がなわとびをしている」
 そう思って通り過ぎた直後のことです。
 ドタッという物音に振り返ってみると、
 なわとびをして遊んでいた女の子が、
 仰向けに倒れております。
 私はギクッとして立ち止まり、
 辺りを見回しました。
 その女の子以外、公園に人影はありません。
 私はドキドキしながら女の子に駆け寄りました。
 女の子は、目を大きく見開いて動きません。
 倒れたときの衝撃のためか、
 鼻水が棒状になって両方の鼻の穴から出ています。
 倒れ方が悪くて頭でも打ったのか、
 あるいは何かの病気の発作でも起きたのか、
 いずれにしても私が女の子を助けてあげなければなりません、
 他には誰もいないのですから。
    その時私は、
 「誰かが今の俺たち二人の様子を見て、俺がこの女の子に
  何か危害を加えたように誤解したらどうしよう」
 と配になりました。
 そうして、もう一度、すばやく辺りを見回しました。
 やっぱり誰もおりません。
 すると、どうしたことでしょう、
 突然、女の子が、むっくりと起き上がったではありませんか。
 「大丈夫?」
 「うん」
 女の子は何事もなかったかのように、
 私から遠ざかっていきました。

 その後、あの公園で女の子を見かけたことはなく、
 間もなく私は引越しをしてその地を離れたので、
 女の子に再び会うことはありませんでした。
 
 あれから何年も経ちました。
 不思議なことに、あのときの数分間の出会いと別れを
 今でもときどき思い出すことがあります。

 一人ぼっちでなわとびをしていた女の子。
 突然倒れた女の子。
 私の問いかけに「うん」と返事をしてくれた女の子。
 私が何もしてやれなかった女の子。

 私は今まで何人もの「なわとびの女の子」に出会いました。
 そうして、いつでもびくびくして、
 何もしてやれませんでした。
  
 彼女が今、
 生まれてきてよかったと思える日々を
 生きていることを、
 そうして、ものごとに真正面から向き合える勇気を
 私が少しでももてることを、
 私はから願います。
 
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Author:あさひなせいしろう
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