追悼・その1

   おとうさん

 「マァマ」
 「はぁい」
 「パァパ」
 「はぁい」

 君が片言の言葉を話し出したころ
 自分の発声が意味をもって相手に届き
 相手がしっかりとそれを受け止め
 今度は自分に返してくれるという
 言葉を媒介としたの交流に目覚め
 その面白さに夢中になった君は
 応えてくれることがうれしくてうれしくて
 ぴょんぴょん跳びはねながら
 飽くこともなく繰り返し繰り返し
 母と父に呼びかけ続けた

 「マァマ」
 「はぁい」
 「パァパ」
 「はぁい」

 何度も繰り返しているうちに君は
 時にはこんな間違いも犯した

 「マァマ」
 「はぁい」
 「パァパ」
 「はぁい」
 「マァパ」
 「・・・?」

 あまりに急ぎ過ぎたのか
 はたまた別々に言うのが面倒になったのか
 母と父が混じってしまった君の造語に
 みんなで大笑いした

 こうして「ママ」と「パパ」が
 君が母と父をよぶときの呼称となった

 やがて時は流れ
 少年になった君にとって
 「パパ」は恥ずかしい言葉となり
 かといって「おとうさん」も
 何だか照れくさくて使えず
 父に気安く話しかける言葉を失い
 君は父と話をしなくなる年代になった

 そうして君は
 二十五歳の若さで
 この世に別れを告げた
 旅立つまでに君は
 何回ぐらいこの父を
 「おとうさん」と呼んでくれたっけ
 君の「おとうさん」には
 なかなか出会えなかったけれど
 「おとうさん」と呼びかけられると
 胸の奥がほっこりして
 うれしい気持ちが
 体中に広がったものだよ
 
 できれば私の最期のときに
 枕元で言ってほしかったが
 そんなことを言っては
 君がかわいそうだ
   
 短い間だったけれど
 どうもありがとう
 「おとうさん」と呼んでくれて
 どうもありがとう
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