恋のうた・その3(完結編)

   忘れられない人

 別れを予感させるのに
 あの人は実に慎重だった
 私に錯覚を抱かせるには十分なほど
 それはほとんど恋にも似ていた

 私の強引な求愛をやり過ごすことに
 あの人は実に巧みだった
 あの人は口癖のように「それは、買いかぶりですわ」と言った
 それはまるで愛の策略と呼べるものだった

 私を傷つけないように
 あの人はずいぶん努力してくれた
 自分の心を痛め苦しめながら
 それは確かに愛そのものだった

 根気強くあの人は
 私が自分で気づくように
 私を諭し続けてくれた
 その思いは微塵も動じることなどなかった
 あの人の夫と家庭を守るために
 
 あの人の思いはときに
 巌(いわお)のように硬く冷たかったが
 その賢明さと優しさは
 常に人の心を温かくし、そして
 あの人をますます美しくした
 
 あの人の懸命な努力と思いの深さ気高さを前に
 私は自分の愚かさと卑劣さに向き合わざるを得なかった
 あの人は夫と家庭と
 そして私まで守ってくれたのだ

 自分の心の中に芽生えた
 あの人への敬意に気づいてしまった以上
 選択の余地など残されてはいなかった
 私は一度もあの人に触れることなく
 あの人の前を去った
 
 今でもときどき考えることがある
 あの人が言った
 「それは、買いかぶりですわ」
 という言葉
 その言葉に込められた真意は
 いったい何だったのかと


 【あとがき】
   文学は、「虚構を以って真実を表現しようとする芸術」だと
  思っています。だから多かれ少なかれ事実でないことを事実で
  あるかのように書くことがあります。でも、それによって真実
  を描こうとするのです。このの中の「私」については、これ
  を書いている現実の私と、そのバカさ加減は似ていますが、夫
  とそれなりの家庭を持つ女性に愛を求めるような気の利いた、
  というか、情熱的というか、そういう資質は、残念ながら私に
  はありません。でも、「あの人」のような心の美しい人は、い
  ました(今もどこかで、お元気に生活していらっしゃるはずで
  す)。そして、私たちの身近にも、私たちが気づかないだけで、
  あるいは気づいていても口にしないだけで、いらっしゃるはず
  です。「気高い愛は、確かに存在します」ということを言いた
  くて、このを作りました。
   もしも熊さんがこのを読んだら、きっとこう言うに違いあ
  りません。

  「せいしろうよ、どうしちまったんだい。ずいぶんかっこつけ
   てるじゃねえか。気取んなよ、まったく。」

  でもね、熊さん、たまには少し、かっこつけさせてくださいよ。
   
   今日は5月24日。朝から晴れて、最高気温は22度前後、湿
  度も低いという天気予報だったので、近くの山に行ってきまし
  た。予報通りのさわやかな5月の日和となりました。プロフィ
  ール写真は、そのときに撮ったものです。晴れわたった青空を
  見ていると、自然と口ずさむ歌があります。昔、テレビのコマ
  ーシャルで流れたCMソング。「チェルシー」というキャンディ
  ーのCMソングです。その、私が大好きな一節。

  「歌いたくなるよな 1日
   みんなにも わけてあげたい
   ホラ、チェルシー
   もひとつチェルシー」 
   (「明治チェルシーの唄」 歌:CHEMISTRY
                作詞:安井かずみ
                作曲:小林亜星)
  
   この歌を口ずさみながら、山の中をちょっぴりウロウロし
  てみました。 
   
   そして、こんな日に使ってみたい、お別れの言葉がありま
  す。稀代の名文章家・太宰治の名作「津軽」、その作品の末
  尾を飾る次の一節をご紹介して、今日のブログを閉じること
  といたします。

  「まだまだ書きたいことが、あれこれとあったのだが、津軽
  の生きている雰囲気は、以上でだいたい語り尽くしたように
  も思われる。私は虚飾を行わなかった。読者をだましはしな
  かった。さらば読者よ、命あらばまた他日。元気で行こう。
  絶望するな。では、失敬。」
                 (角川文庫クラシックス)
  
  人生、雨の日もあれば風の日もあります。そんな試練の日々
 を乗り越え、みなさまの人生が5月の空のように晴れわたった
 すがすがしい年月となりますように、心よりお祈りいたします。
  これにて「恋のうた」3部作は終了です。みなさま、最後ま
 で読んでくださり、誠にありがとうございました。

  元気で行こう! 絶望するな!

  ごきげんよう、さようなら。   

 (なんてこった。【あとがき】が本文よりも長くなってしまっ
  た。こんなのって、ありですかね)
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コメント

恋のうた3部作

素敵でした💖
誰しも心に秘めた愛、心に秘めた想いがある。
それは言葉にしない限り相手に伝わらないことは解っているのです。
解っていても、言えない。
いえ、言いたくないのかも知れません。
きっと、言葉にすると終わってしまうかも知れないから・・・
永遠に心の中で思い続けたい。
そんな気持ちがあるのかも知れません。

Re: 恋のうた3部作

コメント、ありがとうございます。お忙しいところ本当に恐縮です。お心遣いに心より感謝いたします。
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あさひなせいしろう

Author:あさひなせいしろう
 拙い文章を読んでいただき、とて
もうれしいです。心より感謝申し上
げます。
 もしも何か感じるものがありまし
たら、「フリーエリア」のバナーを
それぞれ1回ずつクリックしていた
だけると、さらにうれしいです。私
のブログの生きる糧になります。お
手数をおかけしますが、どうぞよろ
しくお願いいたします。
 こうして読んでいただけたのも、
何かのご縁にちがいありません。あ
なたの人生の今日というかけがえの
ない一日が、すばらしいものになる
ことをお祈りいたします。
 最後まで読んでいただき、ありが
とうございました。
  

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