2023/05/30
銀輪の女
銀輪の女
銀輪の女には気をつけろ
美しいバラにはトゲがある
よどんだ空気の真っただ中
飛鳥が視界を端から端へ
鋭く切り裂き飛ぶように
女が一人、銀輪を駆り
人跡途絶えた真夏の昼下がりの街道を
猛スピードで走り去った
日よけ帽子のつばの下には
刃(やいば)のように妖しく光る
やや切れ長の魅惑の瞳
長い髪を風になびかせ
くるぶしまで隠す涼しげなスカートは
不思議なことに風が舞っても
銀輪に絡まることはない
よく見ると女の服装は
純白のウェディングドレスで
結婚式に臨もうとする
花嫁衣裳そのものだ
その疾駆する自転車は
ぴっかぴかの銀色で
サドルだけはかろうじて
純白の花嫁に負けないように
吸い込まれるよなディープブラック
女は振り返り振り返り
何事かをつぶやきながら
確かに俺に流し目を送った
流し目の誘惑に心奪われ
俺は女をつかまえようと
自転車に乗り追いかけた
力をこめてペダルを踏んで
汗水たらして声をからして
必死になって追いかけたが
女は遠く走り去り
やがて姿も見えなくなった
銀輪の女には気をつけろ
美しいバラにはトゲがある
いったい俺は何をしている
追いつくことをあきらめたのか
そもそも追いつこうとしていたのか
なぜつかまえようとしているのか
俺は女が欲しいのか
つかぬ間の快楽を味わいたいだけなのか
俺は何だかわからなくなり
混乱する頭をかかえながら
叫び声を上げ始めたとき
公園のベンチで目が覚めた
今のは昼寝の夢だったのか
向かい合ったベンチから
熊さんがぽかんとした顔で私を見ていた
「寝言いってたぞ。銀座の女って、誰?」と
熊さんは聞いた
私は夢のあらましを熊さんに話した
「すごい美人がいたとして
男心を盗むからって
よってたかってあらさがしをすんのも
それもなんだか、かわいそうな話だな」
と熊さんは、つぶやくようにそう言った
熊さんの好きだった人は
きっと気配りが行き届いていて気立てのいい
とびきり美しい人だったんだろうな、と思った
そうであってもやはり私は
警戒するに越したことはないと
心ひそかに思うのだ
だってほんとに悔しいけれど
あんなに心を奪っていくもの
こんなに切なくさせるもの
銀輪の女には気をつけろ
美しいバラにはトゲがある
【あとがき】
ある文学作品の中で、「男と女の間に
真の友情は生まれるのか」というテーマ
の議論を読んだことがあります。「恋愛
感情が邪魔をして、男と女の間には永遠
に真の友情など成立しない」という意見
もあれば、「同性の間と同じように成立
する」という意見もありました。その議
論の中で、登場人物のある男がこんなこ
とを言います。
「男と女は、まず熱烈な恋に落ちる。それ
から恋は破綻し、そうして初めて友だち
になる」
つまり、男と女の間には友情は成立する
が、それは恋愛という過程を経て初めて
実現するのだ、ということかと思います。
みなさまはどんなふうに考えますか。
ちなみに私の考えは、「男と女の間に
は真の友情は成立する。ただし、それは
流動的である」ということになりますか。
「ある男」の言うように、恋愛を経て、
それが友情に変わっていくこともあるで
しょうし、友人となった元恋人同士が、
焼けぼっくいに火がつくように、再び恋
の炎が燃え上がることだってあるでしょ
う。程度によりますが、恋愛の緊張状態
が消え去らない方が、人生楽しいと思う
のです。ですから、夫婦の間にも、恋愛
の緊張状態を保つ工夫をした方がいいの
かもしれません。
一つみなさまにお願いがあります。こ
こで取り上げた文学作品ですが、議論の
骨子は鮮明に覚えているのですが、いっ
たいなんという文学作品だったか思い出
せないのです。チェホフあたりかなと見
当をつけて、彼の短編小説や戯曲をあた
ってみましたが、わかりませんでした。
どなたかご存知の方がいらっしゃいまし
たら教えていただけるとありがたいです。
細かいことが気になるたちでして・・・。
今日も【あとがき】が長くなってしま
いました。最後まで読んでいただき、誠
にありがとうございました。
今日がみなさまにとって喜びと安らぎ
と希望に満ちた、すてきな一日となりま
すように。
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コメント
なんだか
「すごい美人がいたとして男心を盗むからってよってたかってあらさがしをすんのもそれもなんだか、かわいそうな話だな」
こういう傾向って、本当にあるんですよね。
ところで、恋愛を経て友情に変わる文学作品ってありましたっけ?あったような、なかったような・・・(m´・ω・`)m ゴメン…ナサイ解りません。
2023/05/30 22:43 by 風花(かざはな) URL 編集
Re: なんだか
2023/05/31 01:17 by あさひなせいしろう URL 編集