ある日

   ある日

 妻が車を運転し
 私は助手席に座り
 二人で河川敷の公園に出かけた
 あたたかな日になった
 桜は満開で、春も本番だった
 公園の駐車場で
 ハンバーガーショップで買ってきた
 ハンバーガーとフライドポテトを食べた
 私のハンバーガーは
 具材がうず高く積まれた「ダブルバーガー」だったので
 どう食べたらよいか迷ったが
 結局上下に力をかけて
 なんとかつぶしてかぶりついた
 妻はホットコーヒーを飲み
 私はコーラを飲んだ
 それから妻は堤防の上の遊歩道を歩き
 私は堤防の上のベンチに座って
 河川敷に作られたドッグランや
 芝草の上で遊ぶ家族連れを眺めた
 空は晴れ渡り
 風は少し強めに吹いていた
 こうして
 私の人生
 一日が過ぎていった
 
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一日の終わりに

   一日の終わりに

 もう、自分で自分のことを苦しめるのは
 やめませんか
 自分を責めるのは
 やめませんか
 自分の存在まで否定するのは
 正しいことではありません
 自分は自分の味方にならなくちゃ

 明日になれば、あなたは再び家を出て
 困難な出来事、難しい人に出遭い
 闘わなければならない
 せめて独りになった今宵は
 自分を思いっきりいたわってやろうではありませんか

 今日一日、あなたはよくがんばった
 よく踏ん張った
 よく我慢したではありませんか
 人のために
 あんなに汗をかいたではありませんか
 あなたは今日を
 精一杯生きたではありませんか
  
 「自分はダメな人間だ」なんて
 間違ったことを考えてはいけません
 あなたは今日、たまたま
 自分のよさに気づけなかっただけです

 もう一度、自分のよさと
 がんばった自分を思い出し
 正しい自分を取り戻して
 安らかに床に就きましょう
 
 そうして明日が来たら
 新しい一日を
 自分らしく
 堂々と
 生きていきましょう

ずるい

   ずるい

 今まで
 頑固で独裁的
 人の話に耳を傾けることも
 かつてなかったあなたが
 急に物分かりがよくなって
 優しくなるなんて
 それはずるいよ

 私の怒りや悔しさをぶつける場所が
 なくなっちまうじゃないか

内視鏡検査

   内視鏡検査

 啓蟄を過ぎた
 暖かなある春の日に
 かかりつけの病院で
 上部消化管の内視鏡検査を受けた
 内視鏡を鼻から挿入する予定だったが
 花粉症のせいもあって鼻腔が狭く
 急きょ口から入れることになった
 前回の診察時、医師から説明があって
 そういう事態は想定の範囲内だったが
 いざそうなってみると
 やはり多少動揺した
 
 不安な気持ちが兆す中、検査が始まった
 案の定、内視鏡の管が喉を通ると
 何度か「おえっ」と吐きそうになった
 吐きそうになっても
 朝から絶食しているから
 口からはよだれだけしか出てこない
 それはそれでちょっと不気味で苦しい

 「胃の中はきれいですが
 食道はかなり荒れてますね」と
 内視鏡を操作する医師が
 モニター画面を見ながら言った
 十分ほどで検査は終わった
 
 検査の間中、看護師の若い女性が
 検査用のベッドに横向きに寝ている
 私の肩と背中を
 「力を抜いてください」と
 静かに言葉をかけながら
 励ますように
 優しく撫でさすり続けてくれた
 
 幼子(おさなご)に読み聞かせをする母の声のように
 穏やかな声だった
 春の日差しのように
 温かな手だった

 穏やかで温かだったが
 私の不安な
 強く支えてくれた
 
 この日私は、穏やかで温かであることが
 人を助ける強さをもっていることを知った



外にも出てみませんか

   外にも出てみませんか

 冬枯れの山々を背に
 春を招き寄せるように
 あちらでもこちらでも
 桜の花が満開になった
  
 道端にかたまって咲く黄色い菜の花は
 何がおもしろいのか身をゆすって
 みんなでにぎやかに談笑している

 庭先の水仙はすらりとした立ち姿
 上品なクリーム色の花はすまし顔だが
 仲間とともに開花した
 隠しきれない喜びが列をなす

 竹林の中をすきとおった風が通り抜け
 その風に乗ってヒヨドリがうれしさを振りまきながら
 波打つように低空飛行を繰り返す

 森の木立ちではウグイスも
 恋を求めて鳴き出した 

 こうして庭に出て
 陽の光をいっぱいに浴びながら
 咲きそろった花々を眺め
 風の音や小鳥たちの声に耳を傾けていると
 間もなく私は早春の温かさに包まれて
 幸せなときを感じながらうつらうつらする

 外にも出てみませんか
 こうして命の輝きを身近に感じると
 あなたが生きていることは
 喜ばしいことであり
 あなたが生きていることは
 祝福に値することを
 確かに感じることができますよ
 

知ってるよ

   知ってるよ

 知ってるよ
 でも、知らないふり

 昨夜(ゆうべ)も夜半に目が覚めて
 眠れぬ夜の
 寝返りの音に
 隣に寝ている君が目覚めて
 ぬくもった布団から手を伸ばし
 背中を向けて寝ている私の
 乱れ、めくれた掛布団を
 そっと直してくれたのを

 私はもちろん知ってるよ
 だって眠れぬ夜だったもの
 知ってはいたけど
 知らないふりして
 布団の中で身をかたくして
 君に気づかれないように
 眠ったふりしてじっとしていた

 実はこんな出来事は
 昨夜が初めてじゃないのだよ
 眠れぬ夜のそのたびごとに 
 君は布団を直してくれた
 私はもちろん知ってたよ
 知ってはいたけど
 知らないふりして
 布団の中でじっとしていた

 幸せはけっこうはかなくて
 たとえばよそ見でもしていると
 いつの間にか消えてしまう
 それがこわくて身をかたくして
 消えないようにじっとしていた
 「ありがとう」なんて言おうものなら
 幸せはとたんになくなりそうで
 なくならぬようにじっとしていた

 こうしてためた幸せな思いは
 いつか感謝の花束にかえて
 君に贈ろうと思っている

 だから私は昨夜も同じく
 知らないふりしてお礼も言わず
 されるがままになっていた 
 幸せな思いがなくならないように

 知ってるよ
 でも、お礼は言わない

 知ってるよ
 でも、知らないふり

何かあったの?

   何かあったの?

 外では冷たい雨が降っていて
 今夜は寒くなりそうだ

 そのドラマで母親は
 様子がおかしい自分の息子に
 「何かあったの?」
 と問いかけた

 息子はうるさそうに
 「なんにもねえよ」
 と答えた

 ところが
 実は「何か」があったのだ
 そこからドラマは急展開していく

 まじめな「何かあったの?」もあれば
 からかい半分の「何かあったの?」もある
 いろんな意味合いの「何かあったの?」があるが
 だいたいは相手のことを配して問いかける
 まじめな「何かあったの?」である

 まじめな「何かあったの?」には
 相手を思う気持ちがある
 相手の力になりたいという気持ちがある
 相手を支えてやりたいという気持ちがある
 事件に巻き込まれて面倒なことになるかもしれないと
 恐れる気持ちもちょっぴりある
 恐れる気持ちに負けはしないぞ、という
 覚悟も少し混じっている
 そして何よりも相手のの声を
 鋭く感受する感性がある
 「何かあったの?」は
 常に受け入れられるとは限らないが
 人と人とをつなぐ
 優しくて、強くて、そして繊細な言葉である
 相手のことを思いやる言葉である

 そんなこんなを考えてるうち
 いつの間にか夜は更けて
 外では雨が降り続き
 今夜は寒い夜になった

 相手のことを思いやれる
 の余裕をもっていたい
 相手のを感じとれる
 優しい感性を身につけたい

 そうして私の大切な人に
 「何かあったの?」と問いかけたい

大丈夫だよ

   大丈夫だよ

 小学6年生のとき、
 一緒に遊んでいた友だちが、
 転んでけがをした。
 顔を地面にぶつけて、
 鼻血を出した。
 おまけに口の中も切って、
 鼻と口から血が流れた。
 びっくりして、
 私は恐る恐る、
 「だいじげ(大丈夫かい)?」
 と聞いた。
 友だちは即座に、
 「だいじだ(大丈夫だよ)」
 と答えた。
 とても大丈夫そうには見えなかった。
 友だちは強い人だな、と思った。
 こんなけがに負けるもんか、
 とがんばってるんだ。
 私はその健気さに感動した。

 私が中学生のとき、
 同居していた祖父は、
 前立腺肥大を患っていた。
 おしっこが出なくなると、
 父が車で祖父を病院に連れていき、
 おしっこを出してもらっていた。
 ある日、父が仕事の手を離せず、
 すぐに病院に連れていけないことがあった。
 膀胱が張って、祖父は苦しそうだった。
 祖父の傍らで気をもんでいた私は、
 恐る恐る祖父に尋ねた。
 「だいじげ?」
 祖父は「うん」と答えたが、
 とても大丈夫そうには見えなかった。
 祖父はとても我慢強い人で、
 弱音を吐いたことなど一度もなかった。
 そんな祖父が、私は大好きだった。
 苦しむ祖父を前にして私は、
 何もできない自分を恥じた。

 大人になって、同僚の女性から、
 仕事のことで激しく詰め寄られたことがあった。
 職員研修に招いた講師の女性が、
 講話の途中で体調が悪くなった。
 研修担当の職員が講話の途中で、
 「大丈夫ですか?」
 と声をかけた。
 講師の女性は、
 「大丈夫です」
 と答えた。
 その顛末をその場で知った同僚の女性が、
 この企画の責任者だった私に、
 こう詰め寄ったのだ。
 「体調が悪そうな人に、
 『大丈夫ですか?』
 と聞いたら、
 『大丈夫です』
 って答えるに決まってるじゃないですか。
 すぐに研修を中断して、
 彼女を休ませるべきです!」
 私は講師の意志を尊重する形で、
 担当者に研修の続行を指示した。
 それがよかったかよくなかったか、
 今でもよくわからないが、
 講師である彼女は、
 強い意志で困難を乗り切り、
 私は変化を恐れて動かなかった。

 「大丈夫」に隠されたさまざまな思いと、
 「大丈夫」を口実にして動かなかった、
 情けない自分を思ってみる。
 そして、これからも生きていく限り、
 何が試され続けるのかを考える。

 「大丈夫だよ」を洞察できるか。
 「大丈夫だよ」を見破れるか。
 「大丈夫だよ」を突き破り、
 自分が為すべきことを
 自信と勇気をもって為すことができるか。
 困っている人を、少しでも、
 助けることができるか。

春の嵐

   春の嵐

 お彼岸の墓参りを終えると
 湿っぽい雨のにおいがし出して
 翌日の朝には静かに雨が降り出した
 その日の昼には本降りになって
 そのうち強い風も加わり
 夜に入ると横殴りの雨が激しく窓を叩く
 本格的な春の嵐となった
 
 ごうごうと叫び声をあげる
 恐ろしいような雨風の音にも
 風の加減で強弱の変化があり
 強く吹きつけるときは胸の鼓動も高まり
 風がやんで静かになると
 降りしきる雨の音がを休ませてくれる
 やがて荒れ狂う雨風の襲来も間遠になり
 夜半には雨も風も嘘のようにおさまった
 雨風に降りこめられた休日の一日
 春の嵐という免罪符のおかげで
 予定をすべてキャンセルし
 のんびりと怠惰な時間を
 思う存分、過ごさせてもらった
 春の嵐が、思いがけない恩恵を
 その風に乗せて運んできてくれた
 
 焦る必要などないのだ
 ただ与えられた恩恵を
 遠慮せずに楽しめばよい
 楽しんだ分だけ
 もからだも、元気になるのだから

 



添い寝

   添い寝

 ある春の日の朝まだき
 幼かりし息子に添い寝する夢を見たり
 幼子の顔はあどけなし
 幼子はいかなる夢を見しや
 やがて窓から差し込む朝陽を受け
 我は目覚めたり
 朝陽はまぶしかりき
 朝陽はあたたかなりき
 夢はせつなかりき

プロフィール

あさひなせいしろう

Author:あさひなせいしろう
 拙い文章を読んでいただき、とて
もうれしいです。心より感謝申し上
げます。
 もしも何か感じるものがありまし
たら、「フリーエリア」のバナーを
それぞれ1回ずつクリックしていた
だけると、さらにうれしいです。私
のブログの生きる糧になります。お
手数をおかけしますが、どうぞよろ
しくお願いいたします。
 こうして読んでいただけたのも、
何かのご縁にちがいありません。あ
なたの人生の今日というかけがえの
ない一日が、すばらしいものになる
ことをお祈りいたします。
 最後まで読んでいただき、ありが
とうございました。
  

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