序章~妻へ~

   序章~妻へ~

 ある夏の日の昼下がり
 つきあい始めて間もない私たちは
 美しい谷川のほとりを散策していた
 木漏れ日を浴びて歩く私たちは若く
 二人の足取りは軽やかだった
 過ぎ去ってゆく時を惜しむように
 私たちはときどき足を止めて
 山が呼吸する気配や
 静かなせせらぎの音に
 耳をかたむけた
 谷川の流れはあくまでも清く
 私たちはその誘惑にまけて
 冷たい流れに手をひたした
 そうして私たちは
 戯れにそのしずくをかけあった
 そのうち私は水をすくって
 少し多いかなと気にはなったが
 興のおもむくままに
 あなたにそれを放り投げた
 水は見事にあなたの顔を直撃し
 あなたの顔は
 水浸しになった
 あなたは笑ってすませてくれたが
 戯れというには度が過ぎていた
 そして私は
 きちんと謝らなかった
 
 あのときは、ごめん

 あなたはたぶん
 覚えていないかもしれないが
 こんな些細なできごとが
 この世におさらばするときを
 時々思ってみる今日この頃
 なぜだかしきりに思い出され
 やがてこの文章は
 あなたへの遺言状の
 序章になると思うのです
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ありがとう、そしてさようなら

   ありがとう、そしてさようなら

 あなたは私のの鏡
 私の真実を映し出す
 あなたのひとみ
 あなたのくちびる
 あなたのしぐさ
 あなたのことば
 
 あなたのすべてが
 私を映す

 私のが元気なとき
 あなたはとてもうれしそう
 私のが弱るとき
 あなたはひどく無口になった
 私と人とのいさかいは
 あなたの顔をくもらせる
 私の仕事が成ったとき
 あなたは輝き、美しかった

 あなたが映した私の
 私自身を励ました
 あなたが映した私の
 私自身に勇気をくれた
 あなたが映した私の
 何が正しいかを示してくれた

 あなたは私の心の鏡
 私の真実を映し出す
 あなたはいつも私だったし
 私はいつもあなただった
 
 しかしあるとき私は気づいた
 私を見つめるあなたのまなざし
 そのまなざしに隠れた気配に
 遠ざかる人を見送る気配に

 あなたのひとみにぽつんと映った
 面やつれした私の姿
 遠ざかっていく私と
 見送るあなた
 もうすぐ別れがくることを
 あなたも私も悟ってしまった
 
 何が理由か分かろうとせず
 あなたもそれをつきつめない
 相手を傷つけるのが怖かったし
 自分が傷つくのも嫌だった
 こんな別れもあるものなんだと
 何だか悔しい気もしたが
 不思議と心は波立たない
 案外こんなものなんだろうと
 思って心をなぐさめる

 でも、今、二人の間には
 何が起ころうとしているか
 はっきりさせねばなりません
 そうでなければこの先とても
 生きていくことはできません
 本当の言葉で確かめられれば
 何とか生きていくことはできる
 そうでなければきっと必ず
 棺桶に入るまで後悔します
 そうはいっても、いざとなったら
 こんなにつらいとは思わなかった
 何とも情けない話だが
 胸がつまって苦しくて
 もう歩くのも無理みたい
 だから先に言わせてください
 どうか私から言わせてください 
 
 場末の古い映画館
 二人で涙して見た映画
 あなたはいつも私だったし
 私はいつもあなただった
 今でも私の大好きなあなた
 今日までどうもありがとう

 夏の夕暮れ
 二人で語らいながら歩いた思い出
 あなたはいつも私だったし
 私はいつもあなただった
 今でも私の大好きなあなた
 今日までどうもありがとう
 
 そして、さよなら
 私の、大好きな、あなた
 いつまでも
 私を好いててほしかった
 さよなら
 私の、大好きな、あなた
 いつまでも
 あなたを感じていたかった
 でも、もうさようなら

 さよなら、さよなら
 さようなら



着信音設定

   着信音設定

 どんな関係があるのと問われると
 何も関係はないのですが
 ブログを始めた記念にと
 スマホで使う着信音
 この際すべて変えてみました
 いや、本当のところは
 干からびたようなこの生活に
 うるおいを与えようと思って
 この際すべて変えてみました 

 知り合いの着信音は
 木村弓さんの「いつも何度でも」
 「呼んでいる いつも・・・・」で始まるこの歌
 そう、着信音が私を呼んでいるのです
 
 愛する妻は
 ホイットニー・ヒューストンの「I will always love you」
 ま、これはご理解いただける妥当な選択では?
 いつでも、どんなときでも I love you!

 ミリタリーグッズを愛好する後輩は
 「自衛隊起床ラッパ」
 よくまあこのような着信音があったものです 

 居合道四段で中国武術の得もある親友は
 ブルース・リーの雄たけび付きの「燃えよドラゴン」
 どうぞご無理をなさらず、お体ご自愛ください
 
 そして初恋の「あの人」は
 サーカスの「Mr.サマータイム」に
 しようかなと思ったのですが
 この歌の内容からして
 誤解が生じる恐れもあるので
 ユーミンの「卒業写真」に
 差し替えました
 彼女からの着信は
 いまだかつて1度もないし
 これからもほぼ、いや絶対ないと思うけれども・・・・

 生活にうるおいを与えようと思って
 スマホで使う着信音
 この際すべて変えてみました

ベートーベン「ピアノ・ソナタ第14番」

   ベートーベン「ピアノ・ソナタ第14番」

 女性ピアニストが鍵盤の上に手をかざすと
 そこで彼女の動きが止まった
 それを見て
 観客は息をのんだ
 にわかに高まる緊張
 一呼吸、二呼吸
 場内の緊張が頂点に達したとき
 おもむろに、しかも決然と、確信をもって
 鍵盤に指がおろされ
 ピアノ・ソナタの演奏が始まった

 「月光」と名付けられたこの曲
 その印象のとおり
 舞台で演奏を始めた彼女に降りそそぐスポットライトは
 雲間から射し込むひと筋の月の光のようで
 彼女はその月の光を一身に浴びながら
 その極めて微細な光の粒子の
 一粒一粒が天から落下する有様を
 ピアノの一音一音で忠実に再現しようと
 全身全霊で、極限の集中力を以って、挑む

 観客は金縛りにあったように動きを止め
 息詰まる緊張感に耐えながら
 この創造の成り行きを、稀有な歴史的事件の目撃者となるべく
 固唾をのんで見守る

 第一楽章が終わるまで続くこの緊張に耐えた観客は
 第二楽章でやっとが解き放たれ
 あらためて厳粛で荘厳な第一楽章の迫力の記憶をたどってみる

 それにしても、楽聖ベートーベンから
 この名曲を贈られた17歳のジュリエッタは
 演奏を聴いて、いったいどんな感想をもったのだろうか



【あとがき】
  ピアニスト・渚智佳さんのピアノ・リサイタルに
 行きました。コロナ禍のせいもあり、プロの音楽家
 の方の生演奏を聴くのは3年ぶりです。やはり、ラ
 イブはすごいですね。
  渚智佳さん、ありがとうございました。

ポニーテール

   ポニーテール

 あの娘(こ)の髪型 ポニーテール
 小顔の彼女に よく似合う

 さわやかあの娘の ポニーテール
 後ろ姿に スキがない

 ポニーテールは 小馬の尻尾
 上下左右に よく動く

 あの娘の束髪も よく動く
 横を向くたび 右に左に

 うなずくたびに 上に下に
 かぐわしい香りを 振りまきながら

 あの踊る束髪の感覚は
 さぞや地よいに違いない
 薄毛の私にゃ分からぬけれども

 にぎやかな集い 楽しい会話
 高揚する気分 躍動する
 ポニーテールは その代弁者

 青春の光は陰りやすい
 だからこそ その「時」を逃すな
 軽やかに 溌溂と 舞い踊れポニーテール

 あの娘の髪型は ポニーテール
 小顔の彼女に よく似合う
 

お墓参り

   お墓参り

 大切な家族の祥月命日
 お墓参りに行ってくる
 
 日差しは春の、2月の下旬
 
 急峻な山道をゆらゆらしながら登っていき
 山の中腹にある墓地にたどりつく
 整然と並んだ墓石と石塔は全部で15基
 ここに葬られているご先祖様は
 いったい何人になるのだろうか
 こんなに大勢のご先祖様に見守られていたんだ
 もったいなくも、ありがたいこと

 花を供え、お線香をあげ
 最後に墓石に手を合わせ
 それから亡き人に話しかける
 恥ずかしいから声には出さず
 の中でつぶやいた

 (あなたが逝ってもう5年になるけど
  そちらの生活はどうですか
  ご先祖様も大勢いらして
  にぎやかそうじゃないですか
  もずいぶん落ち着きましたか

  あなたに何もしてやれず
  あなたの力になってもやれず
  本当に本当にごめんなさい

  また来ます
  ごきげんよう)
 
 日差しは春の、2月の下旬
 それでも風はまだまだ冷たい
 眠気もよおす昼近く
 祥月命日のお墓参り
 無事に済ませて参りました

準備運動

   準備運動

 お相撲さんが四股を踏み
 マラソン選手はストレッチ
 剣道選手は竹刀で素振り
 運動する前、試合前
 欠かせないのは準備運動
 スポーツだけの話じゃない
 歌手のみなさん発声練習
 役者さんは早口言葉
 開店前のスーパーの
 店員さんの挨拶練習
 なんであっても大切なのは
 準備運動、の準備
 
 恐縮ですが私の話
 カラオケ店に入る前
 向かう車中で発声練習
 口元見えると恥ずかしい
 ときには誤解を与える恐れも
 なのでやっぱりマスクで隠し
 メガネ曇らせ発声練習
 たかがカラオケそこまでやるか
 いえいえ小生、無能で気弱
 何をやっても平均以下
 せめて得意なもの一つでも
 身に付けたいと必死の努力
 ご理解いただけるとありがたい

 思うに人生一発勝負
 すべてリハなし真剣勝負
 せめて準備ができるところは
 努めて構えて乗り越えたい

 さぁて準備は整った
 それではお店に乗り込もう
 切ない恋の物語
 今日も歌うぞ20曲
 




生きることは、めんどうくさい

   生きることは、めんどうくさい

 生きることは、めんどうくさい
 一日に何回も
 おしっこをしなければならない
 一日に一回は
 うんちをしなければならない
 おしっこもうんちも出ないと
 気持ち悪い
 気持ち悪いどころか
 病気になって死んでしまう
 何か食べないと動けなくなるから
 何か食べなければならない
 何か食べると
 おしっこやうんちをしなければならない
 めんどうくさい、めんどうくさい
 生きることは、めんどうくさい
 めんどうくさいといって
 じゃあ何もしなければ
 死んでしまう、生きていけない
 生きていけないのは
 いやだ
 いやだと思うなら
 生きることはめんどうくさいと覚悟して
 めんどうくさいことをやっていくしかない
 寒ければ、服を重ね着しなければならない
 暑ければ、薄着にならねばならない
 歯が痛くなれば
 歯医者さんに行かねばならない
 生きていれば
 誰かを好きになってしまう
 誰かを好きになると
 胸の奥がきゅんとなる
 誰かを好きになれば
 悩まねばならない
 さてさてそれはめんどうだ
 さてさてそれはめんどうだけれども
 生きることはめんどうくさいと覚悟して
 めんどうくさいことをやっていくか

春のような

   春のような

 「いやぁ、暑いですねえ。今年はいきなり
  冬から夏になっちゃいましたね。
  春がどっかへ行っちゃいましたねぇ」
 こんなおしゃべりをしていた去年の春4月
 日本では春がなくなってしまったかのような天気だった
 そのころヨーロッパのかの国の人たちは
 力づくで「春」を奪われ、代わりに「地獄」がやってきた

 春のような明るい日差しを浴びて
 洗濯物を干しながら
 春をなくした人たちを想う
 想像力の限界を超えた
 破壊と殺戮
   
 春のような明るい日差しに導かれて
 はしゃぐ子どもたちの声を聞きながら
 春を弔う人たちを想う
 未だかつて経験したことのない
 絶望と喪失の衝撃

 春のような明るい日差しを眺めながら
 湯気立ちのぼる朝餉の膳を前にして
 春を渇望する人たちを想う
 背筋が、魂が凍りつくような
 拷問、虐殺の恐怖

 春のような明るい日差しを話題に
 家族と談笑しながらふと
 春を奪還しようとする人たちを想う
 燃えたぎる
 暗い情念、憎しみと復讐のこころ

 春のような明るい日差しを避けて
 薄暗い部屋の中で私は一人
 遠い国で繰り広げられている
 悪夢のような出来事の映像を
 古い小さなテレビ画面で見る

 耳をつんざく恐ろしい砲撃の音
 破壊され、燃え尽きた集合住宅の残骸
 何もかも踏みつぶして突進する戦車
 廃墟にたたずむ老人
 泣きわめきながら、さ迷い歩く少年
 わが子の遺体にとりつき、泣き崩れる母親
 人々の苦悩の表情と涙、涙、涙
 戦場という名の地獄で
 今も踏みにじられ続ける人間の尊厳
 そして、その地獄の真っただ中で
 命がけで人々を助けようと
 奮闘する名もなき英雄たち・・・・

 今年こそ、かの国に、かの国の人たちに
 春は来るのだろうか
 
 どうか、かの国の人たちに
 救いと平穏を
 失われた春を、再び
 

雪の三相

   の三相

 (その一 降り始めの
 冬晴れの空がにわかに曇り
 日が陰って冷たい風が吹き出した
 午後の3時
 ひっそりと静かに
 そう、あなたが真実を語りだすときのように
 その音の響きの一つ一つまで確かめるように
 ひっそりと静かに
 が降り始める
 降り始めのは不安ばかり
 いつまで降るのか積もるのか
 桜の花びらが散るように
 満を持して
 ひっそりと静かに
 が降り始めた

 (その二 真夜中に降る
 真夜中に降る雪は信念の結晶
 沈思黙考する哲学者の風貌で
 白装束に身を包んで
 鎮魂の舞を、何も見えない闇の中で
 舞い続ける、永遠に続く時間の中で
 もはや人は望むことをあきらめ、
 明日の備えにを向ける
 「明朝の出立は何時だったっけ?」

 (その三 降り積もった雪)
 晴天のもと、意表をつくように出現する雪景色・・・・
 降り積もった雪が自ずと語りだすのは、この上ない純潔、極まる歓喜
 湧き上がり、さらに高まる希望、恋の始まり
 そして、両手でも抱えきれないほどの欲望
 やがて消え去る運命なのに
 なんであんなに輝いてるのか

プロフィール

あさひなせいしろう

Author:あさひなせいしろう
 拙い文章を読んでいただき、とて
もうれしいです。心より感謝申し上
げます。
 もしも何か感じるものがありまし
たら、「フリーエリア」のバナーを
それぞれ1回ずつクリックしていた
だけると、さらにうれしいです。私
のブログの生きる糧になります。お
手数をおかけしますが、どうぞよろ
しくお願いいたします。
 こうして読んでいただけたのも、
何かのご縁にちがいありません。あ
なたの人生の今日というかけがえの
ない一日が、すばらしいものになる
ことをお祈りいたします。
 最後まで読んでいただき、ありが
とうございました。
  

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