星空の下のおしゃべり

   星空の下のおしゃべり

 夜空を見上げるなんて
 久しぶりだわ

 星空もいいもんだ
 きれいなもんだね
 見上げると背筋も伸びて
 気分がいいや
 ちょっと疲れっけどね

 あのさ 当たり前のことなんだけどさ
 うつむいてると
 見えないことがいっぱいあるよね

 そりゃあ うつむいてんだから当たり前だな
 
 それってさあ
 うつむいてるような精神状態のときは
 精神活動も肉体活動も停滞しちゃって
 もちろん判断力も落ちちゃって
 物事の本質を正しく捉えられなくなるってことを言いたいわけ? 

 まあそういうことだね 

 いつもなら見えたり気づいたりしていることも
 気分が落ち込んじゃうと
 見えなくなったり気づけなくなっちゃうことって
 あるよね

 うつむいてばかりじゃなくて
 たまに伸びをしながら大空を見上げてみるのはいいことなんじゃない?

 気分転換ができて
 何かいいこと見つかりそうだよ

 ほんとうに
 何かいいことありそうだね

 元気出していきたいね

 しょぼくれてる場合じゃないよ

 みんなで夜空を見上げながら
 おしゃべりするのも
 いいもんだね

 また会いたいね

 そうだね そうだね そうだね

 星空の下で
 また会いたいね
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ひーちゃん

   ひーちゃん

 ひーちゃんは生後2か月の女の子
 名前の最初が「ひ」なのでひーちゃんになった
 ある晴れた暖かな冬の日の昼近く
 ママと一緒に我が家にやってきた

 まるまると肥え太った
 いかにも健康そうな赤ちゃんで
 何日か前の大相撲初場所で
 幕内最高優勝を果たした
 あの大関・貴景勝に
 体型も表情もそっくりだった
 「あなたはお相撲さんの貴景勝にそっくりですね」と
 思い浮かんだ第一印象を私はひーちゃんにそのまま伝えた
 
 ママにだっこされてきたひーちゃんは
 用意された布団の上に
 仰向けに寝かされた
 ひーちゃんはすぐに手足を動かし始める
 両手を元気よく上下左右に振り回し
 両足で掛布団をけり続ける
 いつ果てるとも知れない筋力トレーニング
 私は添い寝をして
 ひーちゃんに話しかける
 「筋トレ、がんばりますね」
 ひーちゃんは
 「あなたには関係ないでしょ」とでも言いたげな表情で
 無言で筋トレを続ける

 ひーちゃんはときどき
 添い寝をする私をじっと見つめる
 そのとき私は
 ひーちゃんは今
 揺るぎなく確立された確固たるひーちゃんの世界にいて
 そこから私をじろじろ観察しているような
 そんな感覚にとらわれた

 ひーちゃんは口をもぐもぐ動かすと
 急に顔をしかめ
 小さな口をせいいっぱい大きく開けて
 「びぇー」とかわいらしい泣き声をあげる
 私はどうしたわけか胸がキュンとなり
 何かしてあげたいが何をしたらいいかわからず
 混乱した意識をもてあまして
 ただもううろうろするばかり
 ママは「お腹すいたのね」とひーちゃんに話しかけながら
 手早く授乳の準備を始める

 ある晴れた暖かな冬の日に
 私はまぶしいほどの命の輝きを目撃した
 それは泣き声一つで周囲の大人たちを動かすほどの力をもち
 しぶとくしたたかで
 そしてこの上なく美しいものだった
 ある晴れた暖かな冬の日に
 私はすっかり参ってしまった

ピクニック

   ピクニック

 よく晴れたうららかな春の日には
 秘密の花園へピクニックに行こう
 君と二人、腕をからませ
 菜の花の咲く小道をたどっていこう
 
 男たちを虜にしてきたその妖艶さも
 ひとまずは親しいそよ風にあずけて
 君は束縛から解き放たれたように
 朗らかに笑うだろう
 
 そんな君を見るのがうれしくて
 君を出迎える蝶の群れは
 高く低く
 軽やかに舞いながら
 音のないきらびやかな拍手を
 一斉に君へ贈ることだろう
 
 雲の上から舞い戻った陽気なヒバリが
 「おや、お楽しみですね」と話しかけると
 君はにっこり微笑んで
 幸せそうに手を振るだろう
 そうして私たちは
 ヒースやエニシダに囲まれた秘密の花園で
 午睡の夢を結ぶのだ
 
 近くのハナモモの木ではウグイスがさえずり
 耳を澄ませば森の奥からは
 カッコウのため息も聞こえることだろう
 ひとあし先に目覚めた私は
 隣に眠るあどけない君の寝顔に
 一人静かに見入ることだろう
 
 よく晴れたうららかな春の日には
 秘密の花園へピクニックに出かけよう
 秋、ほのかに香るキンモクセイの
 花咲く頃よりもうららかな春の日に

どうしよう

   どうしよう

 どうしよう
 どうしよう

 ひとりぼっちの日曜日の午前
 私はトイレの便座に座り
 便秘が続いた日々を振り返りながら
 待望の瞬間が訪れつつあるのを
 もう少し先延ばしして
 楽しんでもいいかなと思ったりしていたとき
 ふとある不安が頭をもたげた

 もしも今、このときに、宅配業者さんが来たら
 どうしよう
 ついこの間、ネットの通販で
 冷凍餃子を注文したばかりだが
 配達日は確か今日ではなかったか
 現状では、トイレから出て対応するのは
 もう無理だ
 事態はもう動き出している

 玄関脇のトイレの窓越しに
 話をするのは恥ずかしい
 きっと宅配業者さんは
 便座に神妙な顔で座っている
 私の姿を思い浮かべるだろう
 「そのとき」の姿を想像されるのは
 恥ずかしい
 「そのとき」の姿を想像されるのは
 嫌だ

 であるならば

 居留守を使ってだんまりを決め込むか
 いいやそれでは再配達の手続きが
 いかにも面倒だし
 何よりも宅配業者さんに迷惑をかけてしまうのが
 気の毒で苦しい

 ああ、今、このときに
 宅配業者さんが来たら
 どうしよう

 どうしよう
 どうしよう

 恥を忍んで話をするか
 息を潜めてやり過ごすか

 こうして思い悩んでいるまさにそのときに
 便秘が解消されようとする瞬間が
 確かな手ごたえ、いや腹ごたえとともにやってきた
 何日も待った
 待ち望んでいた至福の時間

 と、そのときだ
 トラックが家の前に止まる音がして
 間もなく玄関に設置されたインターホンのチャイムが高らかに鳴り
 若いお兄さんの元気な声が聞こえてきた
 
 「こんにちは、宅配です!」

同志よ

   同志よ

 雨上がりの帰り道
 赤いランドセルを背負った少女は
 あちこちにできた水たまりを
 鼻歌まじりでよけながら
 踊るように歩いていた
 と、そこに思いがけない不運が
 彼女に降りかかった
 通りかかった車が
 道路にできた水たまりの水をはでに跳ね上げ
 少女はその泥水をまともにかぶってしまったのだ
 すると少女はとっさに
 そばにあった自動販売機の陰に隠れた
 罪を犯してしまった善良な市民のように
 恥ずべきことをした正直者のように
 彼女は人目を憚り
 物陰に身を潜めた
 車は何事もなかったかのように去っていった
 かわいそうな少女
 同情や哀れみも彼女を傷つけてしまうから
 彼女は必死になって自分を守ったのだ
 自意識過剰な同志よ!
 私も
 道に迷っているのに
 その事実が人に知れると恥ずかしいので
 必死になって迷っていないふりをするのなんか
 しょっちゅうだ
 誰も私のことなど見ていないのに
 親愛なる同志よ!
 もっと人目など気にせずに
 堂々と生きていければいいのにね
 親愛なる同志よ!
 せめてここに私という仲間がいることを知り
 心を軽くできればいいのだが
 わが同志よ!
 

整形外科待合

   整形外科待合

 整形外科診察室の前の廊下
 並べられた20脚の椅子は
 順番待ちの患者たちで満席だった
 それでも足りず、立っている人が二、三人
 そこへふいに
 体格のいい若者と
 彼に寄り添う
 母親とおぼしき小柄な中年女性が現れた
 若者はぜーぜーと荒い息を吐きながら
 思うように動かない体に鞭打つようにして
 苦しそうに廊下を進む
 複雑に曲がった右脚の
 膝から下にはものものしいギプスがはめられ
 歩くたびにぎしぎしと
 軋むような音がした
 左腕の肘には頑丈な杖が装着され
 右腕は母親が顔をしかめて懸命に支えるが
 ゆがんだ若者の体は一歩を進めるごとに
 大きく揺れて今にも倒れそうだ
 そしてとうとう
 疲労困憊したその若者は
 もう一歩も前に進めないと
 母親に身を預けるようにして
 立ち止まってしまった
 大きく肩で息をしながら若者は
 左足を踏ん張って
 必死になって倒れるのをこらえている
 傾く体を立て直そうと
 もはや最後の足踏みを試みたとき
 廊下全体に断末魔の叫び声を響かせるように
 ガシャアンと大きくギプスが鳴った
 するとそのときだ
 それまで若者と母親を注視していた
 近くの二、三人の患者が
 弾かれたように椅子から立ち上がったのだ
 若者と母親を助けるために・・・・
 若者は譲られた椅子に力尽きて倒れこみ
 母親は周囲に深々と頭を下げた

 隠れている愛は時々
 突然勢いよく、また鮮やかに
 その姿を立ち現すことがある

自問

   自問

 おまえは
 おまえの命を
 言葉に込めているか
 おまえの生きざまを
 言葉にかえているか
 おまえの魂を
 言葉で人前にさらしているか
 ある覚悟をもって
 言葉を刻んでいるか
 真実を伝えようと
 不断の努力を続けているか
 他に置き換えることのできない
 自分を語っているか
 美しいものを美しいと
 好きなことを好きだと
 嫌なことは嫌だと 
 息が詰まりそうなときは苦しいと
 死ぬのがこわいんだと
 言えているか
 おまえは
 悶え苦しみながら
 言葉とともに
 生き抜こうとしているか

逃げろ!

   逃げろ!
   ~が折れそうになっているあなたへ~

 逃げろ!
 逃げろ!
 あなたの存在を脅かすものたちから
 一刻も早く逃げ出せ!

 「逃げるとは卑怯なり」との攻撃は
 あなたにとどめを刺そうとする
 形勢有利な敵対勢力の
 巧みな策略なのだ
 彼らはあなたの復活が怖いのだ
 あなたの矜持がこの言葉にとらわれ
 立ち止まったら最後
 それこそ敵の思うつぼだ

 逃げろ!
 逃げろ!
 逃げるのは
 立派な戦略の一つなのだ
 「三十六計逃げるに如かず」というではないか
 「捲土重来を期す」という言葉もある
 逃げて戦力を立て直し
 再起を図ることこそ
 勇気ある選択なのだ

 だから

 逃げろ!
 逃げろ!
 もはやこのままでは
 自分を支えきれないと思ったら
 わき目も振らずに逃げ出せ!

 逃げるあなたの
 その背中に浴びせられる
 罵詈雑言には耳を貸すな
 それはあなたを亡き者にしようとする
 敵のずる賢い計略なのだから

 逃げろ!
 逃げろ!
 生きる気力さえなくなる前に
 追いつめられている
 過酷な状況の中から
 一目散に逃げ出せ!

 「朝の来ない夜はない」
 というではないか
 絶望の淵に立ったときでも
 あなたの体に
 泥のようにまとわりついた
 重苦しい疲れがとれれば
 気力も必ず蘇る
 希望とともに逃げ出すのだ

 逃げろ!
 逃げろ!
 踏みとどまることにこだわるのではなく
 冷静に状況を見極め
 ここぞと思ったら
 自分を守るために
 迷わずに逃げ出せ

 そして
 どうせ逃げるのなら
 堂々と逃げろ
 顔を上げ
 胸を張って逃げろ
 晴れやかな笑顔で逃げろ
 なぜなら
 逃亡は敗北ではなく
 戦略だからだ

 逃げろ!
 逃げろ!
 あなたが愛する人たちのために

 逃げろ!
 逃げろ!
 あなたを愛する人たちのために

 逃げろ!
 逃げろ!
 あなたをなんとかして屈服させようとする
 無慈悲な運命に打ち克つために

 生きるために

 生きて
 その手で幸せをつかむために
 愛する人たちを幸せにするために

 くたばってたまるか!

 死んでたまるか!

プロフィール

あさひなせいしろう

Author:あさひなせいしろう
 拙い文章を読んでいただき、とて
もうれしいです。心より感謝申し上
げます。
 もしも何か感じるものがありまし
たら、「フリーエリア」のバナーを
それぞれ1回ずつクリックしていた
だけると、さらにうれしいです。私
のブログの生きる糧になります。お
手数をおかけしますが、どうぞよろ
しくお願いいたします。
 こうして読んでいただけたのも、
何かのご縁にちがいありません。あ
なたの人生の今日というかけがえの
ない一日が、すばらしいものになる
ことをお祈りいたします。
 最後まで読んでいただき、ありが
とうございました。
  

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