転んでもただでは起きるな

   転んでもただでは起きるな

 転んで地べたにはいつくばったときには
 そのまんま地面をなめるようにして
 百円玉が落ちていないか探してみよ
 立っているときよりも
 はるかに探しやすいはずだ
 転んでもただでは起きるな

 人ごみの中で転んでしまったときには
 恥ずかしいという思いをごまかさずに
 胸にしっかりと刻んで忘れるな
 その思いはやがて
 名誉を挽回しようとするときの
 熱き原動力になるはずだ
 転んでもただでは起きるな

 仰向けにひっくり返ってしまったときには
 高く澄んで広がる紺碧の空を見よ
 忘れてしまっていた清く美しいものを
 君は思い出すことができるだろう
 転んでもただでは起きるな

 失敗してしまったときには
 そこから教訓となることを導き出せ
 自らの経験から学べるようになれば
 失敗するたびに君は成長していける
 転んでもただでは起きるな

 人生は長いようで実は短い
 転んだことを嘆いているうちに
 時はまたたくまに過ぎてゆく
 君はそれでもいいのか

 転んで宝物を見つけるのだ
 転んで強くなるのだ
 転んで生きることの醍醐味を知るのだ
 転んで何かをつかむのだ
 転んでもただでは起きるな
 君の人生に幸いあれ
 
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コーヒーを飲む

   コーヒーを飲む

 遅い朝食のあと、
 妻の淹れてくれたコーヒーを飲む。
 添えられたクリームも、砂糖も、
 全部入れて飲む。
 少しずつ、静かに飲む。
 ゆっくりと、味わいながら飲む。
 何事かを成し遂げた達成感に浸りながらではなく、
 何事かを成し遂げようという、
 ささやかな野心を胸に抱いて、
 香り高く甘いコーヒーを飲む。
 窓からは冬の陽がさしこみ、
 ストーブにかけたやかんからは、
 ちんちんと湯気が立ちのぼる部屋で、
 少しずつ、静かに、ゆっくりと、
 味わいながらコーヒーを飲む。

光たち

   光たち

 すべての生あるものを屈服させようとする
 真夏の昼下がりの海辺の
 灼熱の太陽の光も

 人の心を惑わす
 夕暮れの移ろいやすい
 残照の光も

 理性をとろけさせる
 夜の閨にともる
 老獪な灯火の光も

 あなたを支配することはできなかった

 それどころか
 あなたの天真爛漫な笑顔と
 光り輝く伸びやかな肢体は
 その光たちを虜にし
 あなたの忠実な下僕として
 その持てる力をあなたに
 一生涯捧げることを誓ったのだ
 
 戦う意志ももたずに
 あなたは光たちを支配してしまった
 あなたのいたずらっぽい笑顔に
 木漏れ日は笑いさざめき
 あなたの幸せそうな微笑みに
 朝日はいっそう輝きを増して応えた
 あなたのしなやかな手足の動きに合わせて
 光たちは風となって宙を舞った

 あなたは無邪気に歌い
 走り、踊り、伸びをする
 光たちはあなたに寄り添い
 あなたをより輝かせるための
 極上の演出を創造する
 あなたはますます美しくなり
 この世の祝福は
 あなたの頭上に
 途切れることなく降り注がれ続ける


 【あとがき】
  「深田恭子写真集『Brand  new  me』」(集英社)より。
  この、光あふれる美しい写真集との出会いに感謝いたし
  ます。

春爛漫

   春爛漫

 今日も暖かな陽気になった
 どこもかしこも光が満ち満ちて
 空も柔らかな春色に染まる

 庭先のキンモクセイの茂みの陰に
 今年もウグイスがやってきて
 初鳴きの練習を始めている

 ホホホホ キョ
 ホホホホ キョッ キョッ
 ホーホー キョッ
 ホーホホ キョッ キョッ

 もはや笹鳴きの課程はとうに修め
 初鳴きの練習も最終段階
 いよいよ始まる恋の告白

 こうしてウグイスはウグイスをもとめ
 おのれの生を全うしようとしている
 春爛漫に囲まれて
 私たちも生きている

 絶望するな
 疲れをとれ
 待てば海路の日和もあるぞ
 まずは温かな紅茶でも飲もう
 そして話はそれからだ

冬の日の目覚め

   冬の日の目覚め

 君が見せてくれた命のかがやき
 抱き上げると、私を一心に見つめた
 きれいに澄んだ、きらきらした瞳

 離乳食を持っていくと
 もううれしくてうれしくて
 ベビーチェアの中で立ち上がって
 何度も何度も跳びはねながら
 母と父を迎えてくれたね

 はじけるような明るい笑顔
 耳をつんざく元気な泣き声
 そして、生まれたときからの
 まれに見る大食漢
 
 君が中学3年生のとき
 君は激しく私に反抗した
 「殴ってやりたい」と
 絞り出すように言った君の
 固く握りしめた右の拳は
 小刻みに震えていた

 初めて
 「パパ」ではなく
 「おとうさん」と
 呼んでくれた夜
 私はおとうさんになろうと思った

 すべてを優しく受け止めてくれた
 穏やかな微笑み

 父の無理解な言葉に
 黙ってこぼした一粒の涙

 生きようとする意志のたくましさ
 生きようとする意志の美しさ
 生きようとする意志のけなげさ

 君がその生を終えるまで
 一生懸命生きようとしていたその姿を
 私は夢の中で思い出していた
 そして無性に悲しくなって
 それから無性にさびしくなって
 私は目が覚めた

 寝室のレースのカーテンからは
 薄明るい外の気配が感じられ
 今日も
 君のいない
 いつもの朝が始まっていた

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あさひなせいしろう

Author:あさひなせいしろう
日本国在住

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